アーカイブ: 源氏物語
須磨(すま)
うらやましくも帰る波かな
朧月夜の君との密通が露顕し、みづから須磨へ退去した光源氏。月明かりと波音の中で都を恋ひ、激しき嵐の夜に神の告げを受ける。源氏物語最大の転換点を描く、望郷と再生の一帖。
澪標(みおつくし)
めぐり逢ひけりえにしは深しな
須磨・明石での流謫を経て都に帰還した光源氏。内大臣として栄華に返り咲く一方、住吉神社で明石の御方と出会ひながらすれ違ふ。縁の深さと身分の差の悲しみが交差する、転落から再生へと向かふ一帖。
蓬生(よもぎう)
荒れにし宿にまづ咲く梅かな
源氏の不在の間、荒れ果てた屋敷でひたすら待ち続けた末摘花の姫君。蓬に埋もれた庭、窮乏の日々、それでも変はらぬ一途な心。都に帰還した源氏との感動の再会を描く、笑ひと哀愁に満ちた一帖。
関屋(せきや)
鎖しと思へど逢はぬ身にぞある
石山詣での途次、逢坂の関で偶然に空蝉の一行と鉢合はせになる源氏。ひと言の会話もなくすれ違ふふたりが交はす和歌に、年月を経てもなほ燃え残る想ひが滲む。余情の美に満ちた、五十四帖中もっとも短い一帖。
絵合(えあわせ)
これなくは何につけてか世を思はまし
冷泉帝の後宮で催された絵合はせ。梅壺の女御派と弘徽殿の女御派が名絵を競ふ中、源氏が須磨流謫の日々に描いた絵日記が決め手となる。苦しみの歳月が宮中最強の「武器」となる瞬間を描く、平安芸術論の帖。
松風(まつかぜ)
弾き留めたる山の端の月
明石から大堰へ移った明石の御方と幼い姫君を源氏が訪ねる。娘の将来のために紫の上への引き取りを考へ始める源氏と、母として引き裂かれる明石の御方の覚悟。松風の音に乗せた、別離と愛の形を描く秋の一帖。
薄雲(うすぐも)
物思ふ袖に色やまがへる
藤壺の宮が37歳で崩御し、源氏は深い悲しみに沈む。明石の御方の姫君が紫の上のもとへ引き取られ、母の断腸の思ひが静かに描かれる。空にたなびく薄雲のやうに儚く消えた愛の行方を、源氏は長く胸の裡に抱え続ける。
朝顔(あさがお)
人の訪れを待つとしもなし
六条院の完成とともに栄華の頂に立った源氏が、長年想ひ続けた前斎院・朝顔の君に再び心を寄せる。しかし朝顔の君は穏やかに、しかし揺るぎなく拒み続ける。雪の夜に紫の上が感じた、愛の危うさと深さが交差する一帖。