アーカイブ: 源氏物語

土佐光信「花散里」源氏物語絵アルバム第11帖、ハーバード美術館所蔵(1509-1510年)

花散里(はなちるさと)

橘の香をなつかしみほととぎす
花散る里を訪ねてぞ来し

橘の香漂ふ夏の夜、源氏が静かに訪れる花散里。派手さのない穏やかな愛の形を、短くも深く描く第十一帖。

須磨(すま)

いとゞしく過ぎゆく方の恋しきに
うらやましくも帰る波かな

朧月夜の君との密通が露顕し、みづから須磨へ退去した光源氏。月明かりと波音の中で都を恋ひ、激しき嵐の夜に神の告げを受ける。源氏物語最大の転換点を描く、望郷と再生の一帖。

土佐光信「明石」源氏物語絵アルバム第13帖、ハーバード美術館所蔵(1509-1510年)

明石(あかし)

いづ方に思ひみだれんはてもなく
かすむ霞のたつたの山か

須磨から移った明石の浦で、源氏は運命の女性・明石の君と出会ふ。別れの悲しみと宿命の縦糸が交差する第十三帖。

土佐光信「澪標」源氏物語絵アルバム第14帖、ハーバード美術館所蔵(1509-1510年)

澪標(みおつくし)

身をつくし恋ふるしるしにここまでも
めぐり逢ひけりえにしは深しな

須磨・明石での流謫を経て都に帰還した光源氏。内大臣として栄華に返り咲く一方、住吉神社で明石の御方と出会ひながらすれ違ふ。縁の深さと身分の差の悲しみが交差する、転落から再生へと向かふ一帖。

土佐光信「蓬生」源氏物語絵アルバム第15帖、ハーバード美術館所蔵(1509-1510年)

蓬生(よもぎう)

年経れど恋しき色は変はらじを
荒れにし宿にまづ咲く梅かな

源氏の不在の間、荒れ果てた屋敷でひたすら待ち続けた末摘花の姫君。蓬に埋もれた庭、窮乏の日々、それでも変はらぬ一途な心。都に帰還した源氏との感動の再会を描く、笑ひと哀愁に満ちた一帖。

土佐光信「関屋」源氏物語絵アルバム第16帖、ハーバード美術館所蔵(1509-1510年)

関屋(せきや)

逢坂は人越えやすき関なれど
鎖しと思へど逢はぬ身にぞある

石山詣での途次、逢坂の関で偶然に空蝉の一行と鉢合はせになる源氏。ひと言の会話もなくすれ違ふふたりが交はす和歌に、年月を経てもなほ燃え残る想ひが滲む。余情の美に満ちた、五十四帖中もっとも短い一帖。

土佐光信「絵合」源氏物語絵アルバム第17帖、ハーバード美術館所蔵(1509-1510年)

絵合(えあわせ)

かたみこそ今は心の慰めよ
これなくは何につけてか世を思はまし

冷泉帝の後宮で催された絵合はせ。梅壺の女御派と弘徽殿の女御派が名絵を競ふ中、源氏が須磨流謫の日々に描いた絵日記が決め手となる。苦しみの歳月が宮中最強の「武器」となる瞬間を描く、平安芸術論の帖。

土佐光信「松風」源氏物語絵アルバム第18帖、ハーバード美術館所蔵(1509-1510年)

松風(まつかぜ)

松風に吹き合ふ琴の声にこそ
弾き留めたる山の端の月

明石から大堰へ移った明石の御方と幼い姫君を源氏が訪ねる。娘の将来のために紫の上への引き取りを考へ始める源氏と、母として引き裂かれる明石の御方の覚悟。松風の音に乗せた、別離と愛の形を描く秋の一帖。

土佐光信「薄雲」源氏物語絵アルバム第19帖、ハーバード美術館所蔵(1509-1510年)

薄雲(うすぐも)

入日さす峰にたなびく薄雲は
物思ふ袖に色やまがへる

藤壺の宮が37歳で崩御し、源氏は深い悲しみに沈む。明石の御方の姫君が紫の上のもとへ引き取られ、母の断腸の思ひが静かに描かれる。空にたなびく薄雲のやうに儚く消えた愛の行方を、源氏は長く胸の裡に抱え続ける。

土佐光信「朝顔」源氏物語絵アルバム第20帖、ハーバード美術館所蔵(1509-1510年)

朝顔(あさがお)

霜がれし籬の菊も折ふしや
人の訪れを待つとしもなし

六条院の完成とともに栄華の頂に立った源氏が、長年想ひ続けた前斎院・朝顔の君に再び心を寄せる。しかし朝顔の君は穏やかに、しかし揺るぎなく拒み続ける。雪の夜に紫の上が感じた、愛の危うさと深さが交差する一帖。