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式部日記

雪の朝の文

源氏物語絵巻 - 宿木
降る雪に空も地もなく白妙の 衣かさねて春を待つかな

夜の間に降りたる雪、朝になりて見れば、庭一面を白く覆ひつくしてをりぬ。築山も松の枝も、すべて白き衣をまとひたるがごとし。

かやうな朝は、いつもより早う目覚めぬ。御所の女房たちもまだ起き出でぬ頃、ひとり縁に出でて雪景色を眺むるは、まことに心澄みわたる心地するなり。

ふと、幼き日に父・為時とともに越前へ下りし頃のことを思ひ出しぬ。北国の雪は都のそれとは比ぶべくもなく深く、父は「この地の厳しき冬も、やがて春となる。人の世もまた然り」と申されき。あの頃はただ寒さに震へてをりしが、今にして思へば、父の言葉の深き意味がやうやう分かる心地す。

雪の上に小鳥の足跡のひとすぢ残りてをるを見つけ、いとをかしう思ひぬ。この足跡もやがて消えゆくものなれど、一瞬の美しさを留めんとして、筆を取りぬ。物語を書くとはかやうなことにやあらむ。消えゆくものを言の葉に留むる営みなり。