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式部日記

中宮さまの御前にて

源氏物語絵巻 - 東屋
散ることを誰に語らむ山桜 風よりほかに訪ふ人もなし

今日は中宮彰子さまの御前にて、物語のことを語り合ひぬ。

中宮さまは、わが書きたる物語をいたうお気に召したまひて、「続きはまだか」と催促したまふ。かたじけなきことにて、筆の進まぬ日もあれど、中宮さまの御期待に応へまつらんと思ふ心こそ、この物語を書き続くる力となりぬ。

御前にさぶらふ女房たちの中には、わたくしを「日本紀の御局」と呼ぶ者あり。漢籍に通じたることを揶揄するものなれど、わたくしは知らぬふりをしてをりぬ。女が学問をすることを快く思はぬ人の多きことは、まことに口惜しきことなり。されどわたくしは、物語を通じて、この世の理(ことわり)を描かんと志すなり。

夕暮れ時、御簾越しに見る庭の紅葉は、錦の帳のごとく美しく、かやうな日々の暮らしもまた、いつかは散りゆく紅葉のごとく過ぎ去るものと思へば、一入あはれなりけり。