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式部日記

宮仕への初日 ── 土御門殿に参る朝

宮人に われはなりぬと 思へども
こころのうちは もとのわれかも

寛弘四年の冬のこと、わたくしははじめて土御門殿へ参りぬ。

支度を整へながらも、手がかすかに震へてをりぬ。殿上人の多き御所へ、かかる学問好きの地味なる女が何の役に立つのかと、道中ずっと心に問ひ続けてをりぬ。牛車の外を流れる冬の景色は、枯れ枝に霜が降りて、いかにも寒々しく見えたり。

御所に参りてのち、女房たちの眼差しの鋭さにまず圧倒されぬ。皆よく整ひ、装束の色目も見事にて、わたくしはしばらく廊の端に立ち尽くしてをりぬ。中宮彰子さまのお顔を拝するのはそのずっと後のことにて、最初の夜はただ心細さと、どこか清々しき緊張とのなかに過ごしぬ。

されど御所の夜の美しさは格別にて、廊に漏れる燈籠の光、どこからか流れてくる管弦の音、女房たちの衣擦れの音――すべてが夢の中のやうにて、わたくしはしばらくただそれらを聞いてをりぬ。日記をつける手癖が、またひとつ新しき材を得たりと思ひながら。

宮仕とはかくなるものかと、そのときはまだよく分からぬままにをりぬ。人の世の表と裏とを、この御所でわたくしはゆっくりと学んでゆくことになるとは、そのときは知る由もなかりしことにて。